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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3725号 判決

被告人

金未奎

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人中井一夫の控訴趣意第一点について。

証拠調というのは証拠方法を取り調べその内容を知り心証を形成する行為であつて、調書を被告人に示し、その署名捺印を確めるという行為は前提的な行為ではあるが、証拠調自体というを得ない。されば本件において検察官が被告人に対する尋問終了に際し司法警察官あるいは検事に対する被告人の供述調書末尾の被告人の署名捺印を確認するにあたり、これに関し刑事訴訟規則第百八十九条、第百九十条第一項、第二項の手続がとられなかつたことをもつて違法であるといゝ難く論旨は理由がない。

(控訴趣意第一点)

(前略)然る処検察官の尋問の終了に於て、検察官は突如として被告人に対する司法警察官並に検事第一回作成に係る両供述調書の末尾の被告人の署名捺印を示し「この署名捺印は何うか」と尋ね被告人をして「違いありません」と答へしめて居ります。

是れもとより検察官が後に申請せんとする証拠調に於ける右両調書の任意性を被告人に確認せしむるにつき、好機逸すべからずとして尋問を進めたものに過ぎないものではありませうが、右調書中の検事作成に係る被告人の第一回供述調書の如きは、本諸証拠中被告人の殺意を認めらるる唯一の供述を内容とするものでありまして、現に原審判決が此の点を認定するのに証拠として採用して居られる無二の書証なのであります。

而して検察官が右両調書を被告人に示して尋問を為し其の署名捺印を確認せしめたと云ふ行為は、当に証拠調に該当するものでありますから、之がためには頭書の如き刑事訴訟法第二百九十八条、刑事訴訟規則第百八十九条、百九十条等の法規に定める手続を経由して始めて許さるべきものであります。然るに之を無視して敢行せられたことは其の違法言を俟たないところであり、従つて又右調書に関する検察官と被告人との問答は排除せらるべきものであり、ます。然るに原裁判所は此の重大なる違法を違法とせられなかつたがため、(検察官と被告人との間に右問答があつた)其の後に於て検察官が更めて裁判所に同両調書を提出し、之が証拠調の申請をするに及び弁護人に於ては其の任意性を否認して異議を申立てたのでありますが、裁判所は遂に弁護人の主張を容れられず任意性ありとして右両調書の証拠調をすることとせられ、且つ原判決は右調書の内検事作成のものを以て被告人の殺意を認める証拠とせられたのでありまして、事此処に至りましたのは右の訴訟手続上の違法が延いて判決にも影響を及ぼして居るがためであると謂ふべく、原判決は破棄を免れないと信ずるのであります。

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